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がんにおける三大治療の緩和的活用方法の概要

獣医師
松本 千聖
[記事公開日]  [最終更新日]
人医療において「緩和ケア」という言葉が初めて使用されたのはカナダにおいて「緩和ケア病棟」が開設された1975年のことです。それから15年後の1990年にWHOによって「緩和ケアに関する定義」が公表され、その後の経験の広がりと支持療法の発展を受け2002年に改訂が行われました。日本においては「緩和ケア」の認知度はまだまだ十分ではないのが現状であり、獣医療でも緩和ケアを終末期医療と捉えて否定的なイメージを持つ獣医療者が多いですが、がんという難しい疾患でも動物のQOLを改善する有効な手段として、三大治療である「手術」「放射線療法」「化学療法」の緩和的活用方法の概要をお伝えしたいと思います。
 ※参考文献:監修 丸尾幸継 川部美史, 伴侶動物のがん緩和・支持療法とがん看護, 2020
[ 目次 ]
がんにおける三大治療の緩和的活用方法の概要

緩和手術

通常、がん症例に対する手術は転移の見られない比較的初期の小さな腫瘍に対しては、根治を目指して完全摘出をすることになります。一方、切除することのできない重要な臓器組織を巻き込んだ病巣や遠隔転移症例においては、病巣の完全摘出は不可能ですが手術を実施する場合があり、その際には他の治療法を併用して、あくまで根治もしくは病巣の縮小や生存期間の延長を目指す、積極的ながん治療法となります。それに対して、がんに対する直接的な治療効果は期待しませんが、がんに付随した動物の痛みや耐えがたいストレスなどのQOLを改善するために実施するのが「緩和手術」となります。
  ・実施すべきケース:緩和手術の実施にあたっては、がんの増殖による組織破壊や圧迫によるがん性疼痛、炎症及び感染、通過障害などが解消され、動物のQOLがある一定期間改善されることが不可欠となります。
  ・実施すべきでないケース:手術によるQOLの改善が全くないか、極めて一時的な場合は実施しません。一般的に減容積手術(根治的に腫瘍全てを切除するものとは違い、サイズを小さくすることを目的とした手術)の単独はメリットがほとんどなく、推奨されません。そのようなケースでは緩和的放射線照射や支持療法を選択すべきと考えられています。

緩和的放射線治療

緩和ケアにおける放射線治療の役割は、疼痛緩和や呼吸困難・排便困難の改善・止血など非常に多岐にわたります。しかし、放射線治療で得られる緩和効果は短期間であることが多いことや実施可能な動物病院が少ないこと、また人と違い全身麻酔が必要不可欠となることから実施の可否はより検討が必要となってきます。以下では緩和ケアにおける放射線治療の代表的な役割を5つ、ご紹介します。
  ・骨腫瘍による疼痛緩和:四肢の骨肉腫に代表される原発性骨腫瘍の標準治療は、外科切除および術後化学療法です。しかし、実際には診断時に遠隔転移が認められ予後不良が予想される場合など標準治療が適応とならないケースも多くあります。骨腫瘍は進行に伴い激しい疼痛を呈するため、疼痛緩和を主な目的とした治療が考慮され、放射線治療はこの点において最も有効な手段の一つです。
  ・気道狭窄の緩和:胸腔内・気道内腫瘍及び気道を圧迫する腫瘍病変の存在は、呼吸障害を引き起こすことがあり、特に下顎腺の内側深部に存在する内側咽頭後リンパ節は両側において腫大すると気道狭窄の原因となります。リンパ腫は放射線感受性が高い腫瘍の1つであり、このようなケースでは緩和的放射線治療によって呼吸状態の改善が期待できます。
  ・排便障害の緩和:肛門嚢アポクリン腺癌は早期に腰下リンパ節群へ転移し、原発巣、リンパ節のいずれも腫大により排便障害の原因となります。特に腰下リンパ節群の最径が4.5㎝以上(ステージ3b)に該当する症例は排便障害により死亡する可能性が高いとの報告もあることから、腰下リンパ節群に対する早急な治療が必要となります。このような場合に外科手術での切除は有用ですが巨大な場合は容易ではなく、周術期に死亡するリスクを伴うため、放射線治療におけるリンパ節病変の軽度な縮小を選択することによる排便障害の緩和も実施されています。
  ・摂食障害の緩和:進行した口腔内腫瘍では、腫瘍サイズや疼痛から食事を取ることが困難となってきます。全ての口腔内腫瘍において緩和的放射線治療が適応ではありませんが、犬の口腔内腫瘍の中でも発生頻度が高い悪性メラノーマや扁平上皮癌は放射線感受性腫瘍であり、放射線治療により腫瘍の縮小が認められることが多いです。
  ・止血:放射線治療には腫瘍からの出血に対して止血効果があります。その機序は完全には解明されていませんが、放射線治療後に血小板凝集や血管内皮へのダメージが生じるためと考えられており、一定期間の腫瘍制御と止血を目的とした緩和的放射線治療は治療オプションの1つとして考慮されています。

緩和的化学療法

緩和的化学療法は、基本的に治癒を期待して行うものではなく可能な限りQOLを向上していくことが目的となるため、予防的に制吐剤や抗菌薬を併用することが多くあります。
  ・実施が可能な症例:緩和的化学療法を実施することで延命、腫瘍によるQOL低下が改善されると予想される症例
  ・実施すべきではない症例:終末期にある症例は、緩和的であっても化学療法を実施すべきではないと考えられています。
  ・緩和的化学療法の例:膀胱移行上皮癌における化学療法とNSAIDとの併用療法や悪性中皮腫などの腫瘍で胸水貯留をコントロールするための抗がん剤の胸腔内投与などが挙げられます。

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