【獣医師監修】 暑い季節に増える皮膚トラブルと衛生管理 | 著者:石川愛美 | 公式 ウィズペティ倶楽部 会報誌

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【獣医師監修】 暑い季節に増える皮膚トラブルと衛生管理 | 著者:石川愛美 | 公式 ウィズペティ倶楽部 会報誌

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獣医師
石川愛美
暑い季節に増える皮膚トラブルと衛生管理

夏の皮膚トラブルは「暑さ」よりも「蒸れ」がきっかけに

気温と湿度が高くなる季節は、犬や猫の皮膚トラブルが増えやすくなります。春から夏にかけては、「体をかゆがる」「耳がにおう」「足先をなめ続ける」「シャンプーしてもすぐにベタつく」といった変化が目立ちやすくなります。
暑い季節の皮膚トラブルというと、汗や汚れを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、犬や猫で特に問題になりやすいのは、皮膚の表面に湿気がこもることです。全身が毛で覆われている動物では、皮膚のすぐ上に熱や湿気が残りやすく、首まわり、わき、内股、指の間、耳の周囲、しっぽの付け根、皮膚のしわなどは、小さな「蒸れ空間」になりやすい場所です。
こうした環境では、さまざまな要因により皮膚のバリア機能が乱れ、もともと皮膚に存在している細菌や、マラセチアという酵母様真菌が増えやすくなります。マラセチアは、健康な犬や猫の皮膚にも存在する常在微生物です。ただし、湿度、皮脂、アレルギー、脂漏、ホルモン疾患などの条件が重なると、赤み、かゆみ、ベタつき、においを伴う皮膚炎の一因になることがあります。
夏の皮膚ケアで大切なのは、単に「汚れを落とす」ことではありません。皮膚を清潔に保つことに加え、湿気をためにくくし、刺激を受けにくい状態を維持することが基本になります。

小さな赤みや足なめは、皮膚からの早めのサイン

蒸れによる皮膚炎は、最初から大きな病変として現れるとは限りません。はじめは「少し赤い」「なんとなくかゆそう」「散歩のあとに足先をなめる」といった、ごく小さな変化から始まることが多いものです。
首輪の下をかく、耳をよく振る、わきや内股を気にする、床や壁に体をこすりつけるといった行動も、皮膚の違和感を示している場合があります。単なる癖のように見えることもありますが、繰り返し見られるときには、皮膚や耳、足先の状態を一度確認してみるとよいでしょう。
長毛種、ダブルコートの犬、短頭種、皮膚にしわの多い犬、肥満傾向のある犬、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの既往がある犬では、蒸れが皮膚炎の引き金になりやすくなります。猫では、犬ほど頻繁なシャンプーを必要としないことが多い一方、高齢、肥満、関節疾患などによって毛づくろいが十分にできなくなると、背中や尾の付け根に皮脂やフケが残り、ベタつきや皮膚炎につながることがあります。
皮膚炎が進むと、赤みだけでなく、ブツブツ、かさぶた、脱毛、黒ずみ、湿ったにおい、膿をもった発疹などが見られるようになります。細菌性膿皮症では、表面上は軽く見えても再発を繰り返すことがあります。また、近年は抗菌薬を必要以上に使わないことも非常に重要視されています。早い段階で皮膚の変化に気づき、適切なケアにつなげることが、重症化や再発を防ぐ第一歩になります。

においとベタつきは、洗えばよいとは限らない

暑い時期に気づきやすい変化のひとつが、体のにおいとベタつきです。「最近、なんとなく脂っぽい」「シャンプーしてもすぐににおう」「耳や足だけ独特のにおいがする」という場合、皮膚の状態に変化が起きている可能性があります。
ただし、においがあるからといって、単純に「もっと洗えばよい」と考えるのは注意が必要です。犬の体臭は、皮脂、汗腺分泌物、常在菌、耳垢、口腔内環境、肛門嚢、寝床の汚れなど、複数の要因が重なって生じます。皮膚由来のにおいでは、脂っぽいにおい、発酵したようなにおい、湿った布のようなにおいとして感じられることもあります。
マラセチア性皮膚炎では、赤みやかゆみに加えて、脂っぽさや茶色っぽい汚れが見られることがあります。耳、足先、わき、内股、首、口唇まわりなどに出やすく、アレルギー性皮膚炎や角化異常を背景にしているケースも少なくありません。一方で、ベタつきの原因として、脂漏症、膿皮症、アレルギー、甲状腺機能低下症(シニア期の犬で多いと言われています)、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)などが隠れていることもあります。
数日洗ってもすぐににおいが戻る、耳や足だけ強くにおう、赤みやかゆみがある、黒ずみや脱毛がある。このような場合は、家庭でのケアだけで様子を見続けず、獣医師に相談することをおすすめします。中でも耳が普段と違う酸っぱいようなにおいがしたり、赤みや腫れが強い場合には早めにご相談ください。

シャンプー頻度は「夏だから多め」ではなく、その子ごとに考える

シャンプーの頻度については、「夏は毎週洗ったほうがいいのか」「皮膚が弱いので、あまり洗わないほうがいいのか」と迷うことがあるかもしれません。しかし、適切な頻度は一律ではありません。皮膚の状態、被毛の量、生活環境、基礎疾患の有無によって変わります。
健康な皮膚で、においや汚れが少ない犬であれば、月に1〜2回程度のシャンプーで十分なこともあります。一方、水遊びが多い、雨の日の散歩が多い、皮脂が多い、アレルギー性皮膚炎や膿皮症、マラセチア性皮膚炎がある場合には、獣医師の指示のもとで週1〜2回、治療初期にはもう少し頻度を上げることもあります。また、同じ水遊びでも海に入ったのか、湖なのか、ご自宅のプールなのかによって、ケアの仕方が少し変わってきます。特に海遊びのあとは、海水が被毛や皮膚に残りやすいため、できるだけ当日中に真水で洗い流してあげましょう。塩分や砂が被毛に残ると、かゆみなどの原因となることもあります。
薬用シャンプーを使う場合は、ただ泡立ててすぐ流すのではなく、有効成分を一定時間、皮膚に接触させることが重要です。多くの商品はよく泡立て、被毛に泡を塗りつけるように使用します。そこから一定時間塗布したままにしたのちによく洗い流します。製品や病変の種類によって使い方は異なるため、自己判断で頻度や使用時間を変えないようにしましょう。
また、洗いすぎも皮膚には負担になります。皮脂を過度に取り除くと、乾燥や刺激が起こり、かえってかゆみが悪化することがあります。人用シャンプーや香りの強い製品、洗浄力の強すぎる製品はできるだけ避け、犬猫用として設計された低刺激性のものを選ぶことが基本です。

洗うことより、きちんと乾かすことが大切

シャンプーで大切なのは、頻度だけではありません。実際には、「どう洗うか」「どう乾かすか」のほうが、皮膚の状態を大きく左右します。
まずは被毛の状態を確認しましょう。毛玉や毛もつれがないかどうかを確認します。毛玉や抜け毛が多い状態で被毛を濡らすと、シャンプーが皮膚まで届きにくく、乾きも悪くなってしまいます。また、毛玉や毛もつれは濡れることで悪化し、皮膚を引っ張ってしまうこともあります。こうなると痛みを生じ、皮膚が赤くなる原因ともなりうるため、洗う前にはブラッシングをして、余分な毛を取り、被毛の通気性をよくしておきましょう。シャンプーは原液を一点につけるのではなく、必要に応じて希釈し、よく泡立てて皮膚全体になじませるほうが刺激を抑えやすくなります。
薬用シャンプーを使う場合は、病変部だけでなく、わき、内股、足先、腹部、首まわりなど、蒸れやすい部位にも丁寧に届かせておくのも良いでしょう。洗い流すときは、すすぎ残しがないように十分に流します。
通常シャンプーであっても薬用シャンプーであっても、使用するお湯の温度は高すぎないように注意しましょう。熱すぎるお湯は皮膚に刺激を与えたり、かゆみを強める可能性があります。
そして、洗ったあとは根元までしっかり乾かすことが大切です。半乾きのままにすると、皮膚表面に湿気が残り、細菌やマラセチアが増えやすい環境を作ってしまいます。特に指の間、耳の付け根、首輪の下、しわの奥、尾の付け根は乾き残しが多い場所です。
タオルドライのあと、ドライヤーの温風を近づけすぎないよう注意しながら、皮膚に熱がこもらないように乾かしましょう。温風を一箇所に当て続けると火傷の原因となることもあるため注意しましょう。かゆみは熱によって強くなることがあるため、皮膚の状態によっては、かかりつけ医より冷風で乾かすことを勧められるケースもあります。皮膚病治療中の犬では、シャンプーに加えて、スプレー、ムース、ワイプなどの局所ケアを併用することもあります。大切なのは、無理なく続けられる方法を選ぶことです。必要に応じて動物病院やトリミングサロンを上手に頼ると良いと思います。
 また、洗ったあとに皮膚が乾燥しやすい子では、保湿ケアも大切です。皮膚トラブルというと、どうしても「菌を減らす」「汚れを落とす」ことに意識が向きますが、皮膚の表面には外部刺激から体を守るバリア機能があります。洗浄によって余分な皮脂や汚れを落とすことは必要ですが、皮膚が乾燥しすぎると、このバリア機能が乱れ、かえってかゆみや赤みが出やすくなることがあります。
特にアトピー性皮膚炎のある犬では、皮膚が刺激を受けやすく、乾燥や摩擦がかゆみの引き金になることがあります。シャンプー後に皮膚がつっぱる、フケが増える、触るとカサカサしている、洗ったあとにかゆみが強くなるといった場合には、洗浄力が強すぎる、頻度が合っていない、保湿が不足している可能性も考えられます。
保湿剤には、スプレー、ローション、フォーム、スポットオンタイプなどさまざまな製品があります。大切なのは、皮膚の状態に合ったものを選び、無理なく続けられる方法にすることです。赤みやただれがある部分に自己判断で保湿剤を塗ると刺激になることもあるため、皮膚病の治療中は、使用する製品やタイミングを獣医師に確認しておくと安心です。

寝床とトイレの清潔さは、皮膚ケアの一部

皮膚をきれいにしていても、毎日触れる寝床やトイレ環境が汚れていれば、皮膚への刺激は続きます。夏の皮膚トラブル対策では、体を洗うことと同じくらい、生活環境を清潔に保つことが大切です。
ベッド、ブランケット、マット、クッション、ケージ内の敷物には、皮脂、フケ、よだれ、尿、食べこぼし、外から持ち帰った汚れなどが少しずつ蓄積します。湿度の高い時期は布製品が乾きにくく、においも残りやすくなります。
洗える寝具を複数用意し、こまめに交換すること、洗濯後は完全に乾かしてから使うこと、通気性の悪い厚手の敷物を敷きっぱなしにしないことが大切です。皮膚炎を繰り返す犬では、ふわふわしたベッドよりも、洗いやすく乾きやすい素材のほうが管理しやすい場合があります。
トイレまわりでは、尿や便が足裏、内股、尾の下に付着しないよう、こまめに掃除し、必要に応じて部分洗いをします。猫では、トイレが汚れていると排泄を我慢したり、別の場所で排泄したりすることがあり、結果として被毛や皮膚の汚れにつながることもあります。
清潔な寝床とトイレは、快適に過ごすためだけでなく、皮膚への慢性的な刺激を減らすための基本的な予防策です。

毎日のケアは、全身シャンプーより「部分ケア」を上手に

暑い季節の衛生管理というと、つい全身を洗うことに意識が向きがちです。しかし、毎日のケアでは「全身を洗う」ことと「必要な部位だけ整える」ことを分けて考えると、家庭での負担も、犬や猫のストレスも減らせます。
散歩のあとに毎回全身シャンプーをする必要はありません。足裏や指の間、腹部、内股など、汚れやすい部位をぬるま湯で軽く流し、よく乾かすだけで十分なことも多いです。濡れタオルで拭く場合は、拭いたあとに湿り気を残さないよう、乾いたタオルで仕上げます。
皮膚のしわがある犬では、しわの奥に汚れや水分が残りやすいため、やさしく開いて確認し、赤みやにおいがないか見ておきましょう。首輪やハーネスも、汗、皮脂、雨水を含みやすいものです。体はきれいにしていても、汚れた首輪やハーネスが皮膚に接していれば、首まわりや胸まわりの皮膚炎につながることがあります。定期的に洗い、完全に乾かしてから使いましょう。
また、被毛を短くすれば必ず涼しくなるわけではありません。被毛には、紫外線や外部刺激から皮膚を守る役割もあります。極端な丸刈りは、直射日光、虫刺され、擦れのリスクを高めることがあるため、犬種や毛質、皮膚状態に合わせて判断することが大切です。犬種や被毛の状態によってはサマーカットで被毛を短くすることで、その後うまく被毛が伸びなかったり、被毛の長いところと短いところが混在し、まばらになってしまうこともあります。初めてサマーカットをする際には必要に応じて、獣医師や信頼できるトリマーに相談するとよいでしょう。

早めに気づき、無理なく続けることが夏の皮膚管理の基本

家庭での衛生管理はとても大切ですが、すべての皮膚トラブルを自宅ケアだけで解決しようとしないことも重要です。赤みが数日で引かない、強いかゆみがある、膿や出血がある、皮膚が湿ってただれている、耳のにおいや耳垢が増えた、足先を執拗になめる、同じ場所を何度も繰り返し悪くする、シャンプー後すぐににおいが戻る。このような場合は、早めに獣医師へご相談ください。
皮膚病は、見た目が似ていても原因はさまざまです。細菌、マラセチア、寄生虫、アレルギー、ホルモン疾患、腫瘍性疾患など、背景にある問題を確認しなければ、適切な治療にはつながりません。皮膚や耳垢を顕微鏡で確認したり、必要に応じて培養検査やアレルギー評価を行ったりすることで、不要な抗菌薬の使用を避け、その子に合った治療を選びやすくなります。
暑い季節の皮膚管理は、特別なことを一度だけ頑張るよりも、日々の小さな習慣の積み重ねです。蒸れやすい場所を毎日少し見る、濡れたら乾かす、寝床を清潔にする、においの変化に気づく。こうしたシンプルなケアが、皮膚トラブルの予防につながります。
皮膚の健康管理はとても重要です。夏を快適に過ごすために、清潔さ、通気性、保湿、そして早めの相談を上手に組み合わせ、その子に合った無理のないケアを続けていきましょう。

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